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福岡地方裁判所 昭和43年(行ウ)111号 判決

長崎市目覚町一二番二号

原告

有限会社 綾部運送

右代表者代表取締役

綾部時春

右訴訟代理人弁護士

松永志逸

長崎市魚の町六番一六号

被告

長崎税務署長

今村福次

右指定代理人

川井重男

大和賢太郎

小林淳

大神哲成

安武嘉三次

神田正慶

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

原告は、「被告が、原告の昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日まで、昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日まで、および昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの各事業年度の法人税について、いずれも昭和四二年六月二九日附でした各更正および加算税の賦課決定をいずれも取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求原因

(一)1. 原告は、被告に対し、昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度(以下、昭和三八事業年度という)、昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度(以下、昭和三九事業年度という)、昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度(以下、昭和四〇事業年度という)の各法人税について、被告の承認に係る青色申告にもとづき、それぞれ確定申告を行つたところ、被告は、原告に対し、昭和四二年六月二九日、昭和三八事業年度については、課税標準額金二、五二〇、六二六円、法人税額金八六〇、〇〇〇円、重加算税金二五四、七〇〇円、昭和三九事業年度については、課税標準額金二、四三五、五三六円、法人税額金八〇八、六〇〇円、重加算税金二四二、一〇〇円、および昭和四〇事業年度については、課税標準額金一、八九八、六二三円、法人税額金五五九、九〇〇円、重加算税金一六七、四〇〇円とする旨の各法人税額等の更正および加算税の賦課決定(以下、更正処分という)をし、その旨の通知書が原告に送達された。

2. これに対し、原告は被告にそれぞれ異議申立をしたが、被告は昭和四二年九月二六日附で右各申立をいずれも棄却する旨の決定をした。

3. そこで原告は福岡国税局長に対しそれぞれ審査請求をしたが、福岡国税局長は、昭和三八事業年度分については昭和四三年一月一三日附で、昭和三九、四〇事業年度分についてはいずれも昭和四三年一月九日附で右各請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、同裁決書謄本はいずれも同月二〇日原告に送達された。

(二)  しかしながら、被告のなした本件各更正処分は、以下述べる理由により、いずれも違法であるから、その取り消しを求める。

1. 本件各更正処分は、そのいずれの通知書において、納税義務者をして何故かかる更正処分をしたかを知り得るだけの具体的理由の記載がなく、従つていずれも理由不備の違法がある。

2. また、本件各更正処分は、以下述べるように、いずれもその所得金額の認定を誤つた違法がある。

(1) 昭和三八事業年度において、

原告の附帯事業である自動車分解整備部門で使用している工具の減価償却費金一五二、二二四円の計上洩れがある。従つて同事業年度の所得金額は、前記更正所得金額二、五二〇、六二六円より右減価償却費を差し引いた金二、三六八、四〇二円である。

(2) 昭和三九事業年度において、前記減価償却費金一五二、二二四円および訴外尻無三助からの未払借入金二、一三〇、〇〇〇円の計上洩れがある。

従つて同事業年度の所得金額は、前記更正所得金額金二、四三五、五三六円より右減価償却費および未払借入金を差し引いた金一五三、三一二円である。

(3) 昭和四〇事業年度において、前記減価償却費金一五二、二二四円および訴外溝口安一に対する貸倒金一、三八〇、〇〇〇円の計上洩れがある。

従つて同事業年度の所得金額は、前記更正所得金額金一、八九八、六二三円より右減価償却費および貸倒金を差し引いた金三六六、三九九円である。

3. 更にまた原告は故意に脱税行為をしたものではなく、従つて重加算税の賦課決定は違法である。

二、請求原因に対する被告の答弁並びに主張

(一)  請求原因(一)の事実はすべて認める。

(二)  請求原因(二)1の主張は争う。

被告は昭和四二年六月三日附で原告の昭和三八事業年度に対する青色申告の承認を取り消したが、右取り消しの効果は当該事業年度開始の日に遡つて生じており(法人税法第一二七条第一項)、従つて被告が昭和四二年六月二九日附でなした各更正処分は青色申告書に係らない法人税の課税標準について更正したものとなるから法人税法第一三〇条第二項を適用する余地はなく、その通知書には理由の附記を要しないのである(国税通則法第二八条)、よつて被告がなした更正処分には何ら違法はない。

(三)  請求原因(二)2の主張はいずれも争う。

原告の所得金額は、昭和三八事業年度金二、五二〇、六二六円、昭和三九事業年度金二、四三五、五三六円、昭和四〇事業年度金一、八九八、六二三円であり、原告の主張は以下述べるように、いずれも失当である。

1. 減価償却費について

減価償却費として各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入できる金額は当該事業年度において償却費として損金経理をした金額に限られるのであるが、原告主張の工具は、いずれも資産に計上されていない簿外資産であるため、当然各事業年度において償却費として損金経理されておらず、従つて所得金額の計算上損金に算入されるべきではない。

2. 未払借入金について

借入金はもともと負債科目であり損金を構成するものではない。なお、原告主張の借入金は原告会社代表者訴外綾部時春個人が借り入れたものであるが、原告の事業資金に充当された事実を証するものがない。

3. 貸倒金について

これは簿外の貸付金であるため、原告が貸付けたものか原告会社代表者個人が貸付けたものか不明である。

(四)  請求原因(二)3の主張は争う。

原告は、本件各事業年度において、運送事業の外に「光モータース」の名称で自動車の分解整備事業をも継続して経営していたにもかかわらず、分解整備部門にかかる収支は会社の帳簿には何ら記帳せず、運送部門にかかる収支のみ記帳し、その記録にもとづいて確定申告を行つている。しかも、各事業年度の確定申告から除外された分解整備部門の収益は、十八銀行浦上支店等に仮空名義または代表者綾部時春の個人名義等の形式で預金され、仮装隠ぺいされていて原告は被告の帳簿等提出の求めに対しても応じなかつた。従つて、被告がこれらの所得に対し国税通則法第六八条第一項により重加算税を課したことに何ら違法はない。

三、被告の主張に対する原告の答弁

被告がその主張の日その主張の年度の青色申告承認を取り消したことは認めるが、その法律的効果は争う。

第三、証拠

一、原告は、甲第一号証の一乃至三、第二号証の一乃至三、第三号証の一乃至三、第四号証乃至第一三号証、第一四号証の一乃至三を提出し、証人尻無三助、同溝口安一の各証言および原告会社代表者綾部時春本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

二、被告は、乙第一号証乃至第五号証を提出し、証人中山信一郎の証言を援用し、甲第一号証の一乃至三、第二号証の一乃至三、第三号証の一乃至三、第八号証の各成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

理由

一、原告が被告に対し、昭和三八、三九、四〇事業年度の各法人税について、被告の承認に係る青色申告にもとづいて、それぞれ確定申告を行つたところ、被告は、原告に対し、昭和四二年六月二九日、昭和三八事業年度については、課税標準額金二、五二〇、六二六円、法人税額金八六〇、〇〇〇円、重加算税金二五四、七〇〇円、昭和三九事業年度については、課税標準額金二、四三五、五三六円、法人税額金八〇八、六〇〇円、重加算税金二四二、一〇〇円、昭和四〇事業年度については、課税標準額金一、八九八、六二三円、法人税額金五五九、九〇〇円、重加算税金一六七、四〇〇円とする旨の更正処分をし、その旨原告に通知したこと、これに対し原告が被告にそれぞれ異議申立をしたところ、被告は昭和四二年九月二六日附で右各申立をいずれも棄却する旨の決定をしたこと、そこで原告が福岡国税局長に対しそれぞれ審査請求をしたところ、同局長は、昭和三八事業年度分については昭和四三年一月一三日附で、昭和三九、四〇事業年度分についてはいずれも昭和四三年一月九日附で右各請求をいずれも棄却する旨の裁定をし、同裁決書謄本がいずれも同月二〇日原告に送達されたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、各更正処分の違法性の有無

(一)  各更正処分通知書の理由不備の有無

被告が原告の昭和三八事業年度についての青色申告の承認を昭和四二年六月三日附で取り消したことは当事者間に争いがない。

ところで法人税法第一二七条第一項によれば、右取り消しの効果は当該事業年度開始の日に遡つて生じ、以後その提出した青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなされる。従つて、被告が和年四二年六月二九日附で原告の各事業年度についてなした更正処分はいずれも青色申告書に係らない法人税の課税標準について更正したものとなり、法人税法第一三〇条第二項を適用する余地はない。

そして、国税通則法第二八条第二項には、更正通知書に記載すべき事項が列記されており、右列記事項以上に更正処分の具体的理由等を記載することまでは要求されていないのである。そこでこれを本件についてみると、成立に争いのない甲第一号証の一乃至三(本件各更正通知書)に明らかなとおり本件各更正通知書にはいずれも右法定記載事項が明確に記載されており、従つて右各更正通知書には瑕疵がなく、右各更正処分に違法は存しない。

(二)  所得額認定の誤りの有無

1. 成立に争いのない乙第一号証、証人中山信一郎の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第三号証乃至第五号証および同人の証言によれば、原告の昭和三八事業年度の所得は、運送事業部門による収益金三三、六七三円、整備事業部門による収益金二、四八六、九五三円計金二、五二〇、六二六円、昭和三九事業年度の所得は、運送事業部門による収益金三、二〇五円、整備事業部門による収益金二、五九七、三六一円計金二、六〇〇、五六六円、昭和四〇事業年度の所得は、運送事業部門による収益金五、九〇九円、整備事業部門による収益金二、〇四一、六一四円計金二、〇四七、五二三円であることが認められ、従つて被告が決定した更正所得金額はいずれも右に認定した原告の所得金額と同一(昭和三八事業年度)かまたはそれ以下(昭和三九、四〇事業年度)であり、本件各更正処分の所得額認定に違法はない。

2. 原告はその整備事業部門において使用する工具の減価償却費として毎期金一五二、二二四円を本件各事業年度より差し引くべきであると主張するが、減価償却費として各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入できる金額は、当該事業年度において減価償却費として損金経理をした金額に限られるところ(昭和三八事業年度分については、昭和三九年政令第七〇号による改正後の法人税法施行規則第二一条第一項、昭和二六年大蔵省令第四九号による改正後の法人税法施行細則第三条、昭和三九、四〇事業年度分についてはそれぞれ昭和四〇年法律第三四号による改正後の法人税法第三一条第一項)、証人中山信一郎の証言によれば原告主張の工具は、いずれも資産に計上されていない簿外資産であつて、本件各事業年度において減価償却費として損金経理されていないことが認められ、従つて所得金額の計算上損金に算入されるべきではないことになる。

3. 原告は、昭和三九事業年度において訴外尻無三助からの未払借入金二、一三〇、〇〇〇円が、昭和四〇事業年度において訴外溝口安一に対する貸倒金一、三八〇、〇〇〇円の各計上洩れがある旨主張するので、以下この点について判断する。

証人尻無三助の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第四号証および原告会社代表者綾部時春本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一一号証の記載内容によれば、訴外尻無三助は、原告会社代表者綾部時春に対し、昭和三八年八月ごろから翌三九年八月ごろまでの間に数回に亘り合計金二、一三〇、〇〇〇円を貸与し、右綾部は右金員を原告の事業資金としたが、原告が経営不振のためいまだ返済していない旨記載され、証人尻無三助の証言および原告会社代表者綾部時春本人尋問の結果も右記載内容に副い、また一方、証人溝口安一の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第五号証および原告会社代表者綾部時春本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一二号証によれば、原告は、訴外溝口安一に対し、昭和三八年八月ごろから翌三九年七月ごろまでの間に数回に亘り合計金一、三八〇、〇〇〇円を貸与したが、いまだ右溝口より返済を受けていない旨記載され、証人溝口安一の証言および原告会社代表者綾部時春本人尋問の結果も右記載内容に副う。

しかしながら、右供述ないし記載内容は、原告が一方において事業資金のために金二、一三〇、〇〇〇円を借り入れながら、他方において全く時期を同じくして金一、三八〇、〇〇〇円を貸し出したことになること、また、借入金については、原告主張自体の所得においてさえ、昭和三八事業年度においては金二、三六八、四〇二円、昭和三九事業年度においては金二、二八三、三一二円(ただし、本件借入金額は控除せず)の所得があるのに、何故かかる借入金をする必要があつたのか、またその使途が何であるのかについて、原告は、全く明らかにしていないこと、そして貸付金については、前記溝口安一の証言内容が非常にあいまいであること、その他前記尻無三助の証言によれば、右借入金については受取証が、また前記溝口安一の証言によれば、右貸付金については手形がそれぞれ存在するというのに、これら右借入金および貸付金を証する証拠の提出援用もないことなどを考え合わせると、右各供述ないし記載内容はいずれも事実に副うものであるとは認められず、他に右原告主張を認めるに足りる証拠はない。

よつて原告の右主張は採用できない。

(三)  重加算税賦課決定の誤りの有無

前記乙第一号証および証人中山信一郎の証言によれば、原告は、整備事業部門が原告に属するものであることを認識しておりながら、右部門の収益を確定申告から除外して親和銀行や十八銀行等に他人名義や仮空名義で預金し、また右部門の収支を損益帳簿に記載せず、被告の帳簿等提出の求めに対してもこれに応ぜず納税申告書を提出していたことが認められ他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

すると、原告は国税の課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいまたは仮装したところにもとづき納税申告書を提出していたものと認められるので、被告が右整備事業部門の所得に対し国税通則法第六八条第一項により重加算税を賦課したことに何ら違法な点はない。

三、以上のとおり、被告のなした本件各更正処分はいずれも正当であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 生田謙二 裁判官 鳥飼英助 裁判官 山内喜明)

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